倉敷中央病院 様

INTERVIEW

課題だった薬物治療の
標準化にFINDATを活用

2020年度より、本格的にフォーミュラリー策定を進めている倉敷中央病院。現在は「PPI・P-CAB」で導入されています。
今回は、フォーミュラリー策定をどのように進めたのか、またFINDATがフォーミュラリーやそれ以外の業務でどのように活用されているのかなどについて、DI業務を担当されている薬剤部の山田菜月先生にお話を伺いました。

FINDAT導入の大きな目的は「薬物治療の標準化」

倉敷中央病院 様 インタビュー風景

FINDATを導入いただいたきっかけを教えてください。

1つ目はフォーミュラリーの策定です。
FINDATをモニター利用する2020年6月まで、恐らく薬剤部のほとんどはフォーミュラリーの概念を知らなかったか、知っていても当院で導入する意識はなかったと思います。それもあり、フォーミュラリーを導入することが決まっても、作成や運用をしていくために何をすればよいかわからずに手探りの状態でした。また、薬物療法の標準化も重要な課題でした。

FINDATがきっかけでフォーミュラリーへの理解が深まったことで、フォーミュラリーをどのように考えて運用すればよいのか、道筋が見えてきましたね。導入により、薬物療法の標準化を進めていけることもわかり、そのほかにも医療安全上、在庫管理上など様々なメリットがあることもわかりました。そのためフォーミュラリー策定に力を入れようという流れになり、FINDATも本導入に至りました。

2つ目は新薬評価や薬効群比較レビューの活用です。
当院は地域の基幹病院で、様々な希少疾患の方も通院されるため、どうしても採用品目が多くなります。一方で地域の市民病院的な機能も持ち合わせており、生活習慣病の治療薬も数多く採用しています。薬剤の採用可否を決める薬事委員会には、毎月多くの採用申請が出されますが、すべての薬剤について既存薬との比較やエビデンスを収集して吟味することは業務上大きな負担でした。今後、採用段階でより良い薬剤を選別するためにも、FINDATが有用だと考えました。

FINDATの導入に際し、大変だったことはありましたか?

FINDAT導入の少し前に「Lexicomp®」を契約したばかりだったので、いずれも購入というのはなかなか難しい状況でした。そこで、まずはPPI・P-CABのフォーミュラリーを導入、年間数百万円の削減効果があるということを試算しました。

さらに、これから先、第2弾、第3弾とフォーミュラリーの薬効群を定めればいっそうの効果が期待されることや、FINDATはそのために欠かせないツールだと説明をすることで院内に導入できました。

医師との丁寧なコミュニケーションにより、
「PPI・P-CAB」のフォーミュラリーを策定

倉敷中央病院 様 インタビュー風景

フォーミュラリーの策定については、2020年度の薬剤部の目標にも掲げられていましたね。

そうですね。フォーミュラリー策定については薬剤部主導で進めていましたが、薬物治療を標準化したいとの要望はジュニアレジデントの医師が所属する教育研修部からもありました。ある疾患に対して初めて使った薬は、その後もずっと使い続けるまさに「自家薬籠中の物」になりやすいです。この時に院内にフォーミュラリーがあれば、あらかじめエビデンスを評価した、院内の第一選択薬を使用することにつながります。

このような背景もあり、院内の薬物療法を標準化してより良い治療をより多くの患者さまに提供したいと考え、2020年度の目標に設定しました。

フォーミュラリー策定を進めるうえで、どのような点に課題を感じていましたか?

一番は、やはり院内の先生方とのコミュニケーションですね。「処方権を侵害するのではなく、薬剤部としてより良い薬物療法に貢献したい」という意図を理解してもらうのがなかなか難しかったです。

先生方への説明を担当した薬剤師が、本当に頑張ってくれましたので感謝しています。粘り強く先生のところに通い、顔を合わせて、地道に信頼関係を築いてくれました。

実際にフォーミュラリー策定を進めるうえで、どのようにFINDATを活用されたのか教えてください。

取り掛かる薬効群を決めるところから手探りだったので、FINDATの標準フォーミュラリー機能を参考にしました。すでに様々な分野で充実した内容が公開されていることに加え、定期的に更新され新しい情報が反映される点が心強かったです。

また、あらかじめ自分たちでフォーミュラリーの原案を考えていた場合は、考え方の道筋が間違っていないかの確認にも活用できました。FINDATには表面的なフォーミュラリーの順位付けだけでなく、参考資料とした引用元のガイドラインの情報なども載っているので、参考とした情報にもれがないか、また解釈が間違っていないかを確認することができます。

結果的に現在、貴院では「PPI・P-CAB」についてフォーミュラリーを策定されていますが、どのように運用されているのでしょうか。

消化器内科の先生にフォーミュラリーの内容を監修していただいた後、院内の会議で公式にまず報告しましたし、その次に使用量の多い処方科には直接フォーミュラリー担当薬剤師が案内に伺いました。そのほかの科では、カンファレンスで病棟薬剤師がフォーミュラリー導入について説明を行いました。
運用開始後は、処方オーダー時に第一選択薬以外を選択すると、電子カルテで「第一選択薬は〇〇です」と表示が出るようになっています。また、どの薬がどの程度どのように使われたかの推移も毎月レビューしていますね。この結果は各科にフィードバックし、カンファレンスで再度フォーミュラリー遵守についてご協力をお願いする場合もあります。

フォーミュラリー策定に関して、2021年度の活動を教えてください。

DPP-4阻害薬などの経口糖尿病薬や、便秘の薬も安価で長年の歴史ある薬剤が今でも頻用される一方、新しい作用機序の薬剤が増えていますので、エビデンスに基づいて標準化したいと考えています。

新たに採用が決まった医薬品のデータ収集にもFINDATを活用

倉敷中央病院 様 インタビュー風景

日々のDI業務はどのように行っていますか?

私を含め4名の薬剤師を中心に、2名の事務員にもサポートしてもらいながら行っています。主な業務は医薬品情報の収集と精査、周知、それから日々の質疑応答への返答と、医薬品関連のシステムメンテナンスです。専門分野をもつ薬剤師はそちらの業務を行うこともありますが、70~80%ほどはDI業務に携わっていますね。

また、新たな施策、たとえばフォーミュラリー策定を始める際などは、DIに従事している薬剤師ならではの視点を生かして参加しています。フォーミュラリーの策定はまさに医薬品情報業務ですので、DI室員として私が担当しています。

幅広い業務に従事されているんですね。DI業務を進めるうえで課題はあるのでしょうか?

歴史のある病院なので薬剤系の監査システムも古くから使用されており、その更新が難しいです。昔は最善だと思って入れたデータが現在では合わなくなっていることもあります。

たとえば最近では特殊な使い方をする薬が増えているので、必要な検査値や厳密な使用制限がある場合も多いです。ただ、それが10年前に想定していた使い方ではないとなると、必要な情報をせっかく作ったシステムに入力できない状態になっている場合もあって。
とはいえ当院は採用薬がとても多いので、見直すとなると膨大な時間がかかってしまいます。それをどこまでの精度で見直してアップデートしていくかは課題になっていますね。

DI業務の課題に対して、FINDATが貢献できている部分はありますか?

現在DIでは薬事委員会で採用が決まった医薬品のデータを収集する役割を担っていて、どういった項目について評価したら良いか考える際に新薬評価機能を使用しています。

また、新薬は厳密な使用が求められるものも多く、FINDATの新薬評価を参考に薬剤師が確認すべき項目を検討できるのではないかと考えています。まだしっかり活用できているわけではないので、これから様々な業務で役立てたいです。

FINDATが処方状況を見直すきっかけに

倉敷中央病院 様 インタビュー風景

そのほかに、日々の業務でFINDATを活用されている場面があれば教えてください。

まだまだこれから活用していく段階ではありますが、つい先日、高カリウム血症のフォーミュラリーが公開されたのをきっかけに、当院の処方状況を見直しました。現状はまだそれほど不適切な使用が見られなかったので、引き続きデータモニタリングしていく判断としましたが、FINDATからの情報がきっかけで処方状況の確認ができて良かったです。

それから、FINDATは日本語の医薬品情報がしっかり載っているだけではなく、独自の解釈を加えているのがすばらしいと思っていて。新薬評価や薬効群の比較レビューを行う際、当院の薬剤部でまとめた内容をFINDATの情報と照らし合わせながら、自分たちのやり方で足りない部分がないかを確認しています。海外機関の規制情報もなかなか情報を得ることが難しいので参考になりますね。

様々な場面でお使いいただきありがとうございます。今後の活用についてはいかがでしょうか?

当院では今後、採用品目を絞っていく必要があると考えています。そうすると入院時に持参薬から切り替える際、同一成分薬でなく同種同効薬への切り替えが必要になるので、患者さまにとってより適切な薬を選定する際にFINDATを活用したいです。

貴院で利用されている他ツールとの使い分けはどのように行われていますか?

FINDATは国内で発売されている薬について、一つひとつの情報が精査されている点が良いなと思っています。他社のツールも一つの薬剤に対しての情報は充実しているものの、日本でしか発売されていない薬だと内容が不十分なこともあるので…。また、それぞれの薬を比較する際に使いづらさを感じることもあります。

ですので、国内でのみ発売している薬の詳しい情報まで知りたいときや、薬効群の比較をしたいときはFINDATが有用であり、優先的に使用したいと考えています。

最後に、今後のFINDATに期待することを教えてください。

順次フォーミュラリーが更新されるのはとても頼もしく思っています。

日本で、ここまでの情報量を精査し、独自の解釈まで加えているデータベースはほかにないので、今後どんどん薬効群が増えていってほしいです。また、様々な病院で導入が進み、「FINDAT見た?」といった話が病院間でできることを期待しています。

病院概要

名称
倉敷中央病院
所在地
岡山県倉敷市美和1丁目1番1号
開設年月日
大正12年6月2日
病床数
医療法許可病床1,172床(一般1,157床/精神病床5床/第2種感染症10床)
診療科目
総合内科、消化器内科、腫瘍内科、脳神経内科、呼吸器内科、糖尿病内科、腎臓内科、血液内科、内分泌代謝・リウマチ内科、総合診療科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科・脳卒中科、呼吸器外科、産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科、形成外科、美容外科、皮膚科、放射線診断科、放射線治療科、麻酔科、救急科、集中治療科、リハビリテーション科、緩和ケア科、臨床検査・感染症科、病理診断科、循環器内科、心臓血管外科、遺伝診療部、歯科